夏原武・黒丸『クロサギ』1~2巻(小学館ヤングサンデーコミックス)

4091531415クロサギ 1―戦慄の詐欺サスペンス (ヤングサンデーコミックス)
黒丸
小学館 2004-04-05

by G-Tools

4091531423クロサギ 2―戦慄の詐欺サスペンス (ヤングサンデーコミックス)
黒丸
小学館 2004-07-05

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今年63冊目(小説10、漫画49、その他4)。

詐欺師には、人を騙し金銭を巻き上げる白鷺(シロサギ)、異性を餌とし、心と体を弄ぶ赤鷺(アカサギ)、人を喰らわず白鷺と赤鷺のみを喰らう黒鷺(クロサギ)がいる。

父親がシロサギに嵌められて起こした無理心中で唯一生き残った黒崎(クロ)は、この世のシロサギを喰い尽くすため、家族を破滅させた詐欺の計画を立てた張本人であるフィクサーから情報を買うクロサギとなった。

詐欺師を騙す詐欺師を中心に、様々な詐欺を見ていく”戦慄の詐欺サスペンス”。

原案の夏原氏は『伝説の頭・翔』などのヤンキーものも手がける傍ら、『現代ヤクザに学ぶ最強交渉・処世術』や『サギの手口』など、裏社会における交渉術にも詳しい。*1

その夏原氏のもつデータを生かし、リアリティのある物語が作られている。


この作品は三つの視点から読むことができる。

ひとつは詐欺を巡る人間ドラマ。詐欺師を殲滅するために動く黒崎、法の視点から動く検事志望の大学生・氷柱(つらら)、執拗に黒崎を追い続けるキャリア警部補・神志名*2、黒崎一家を破滅させた本人であるフィクサー・桂木の四人がそれぞれどう動くのかも見物だろう。

次に、詐欺の参考書としての側面。前述したとおり、実際に起きた事件を参考にして詐欺の計画が練られており、とてもリアリティのあるものになっている。もちろん若干のフィクションはあるとは思われるが、そこは『事実は小説より奇なり』というもの、いつ自分自身が騙されるのか分からないのだ(もしかしたら騙されたのにすら気づかないこともあるかも知れない)*3


そして三番目の側面は『倒叙ミステリ』としての側面である。倒叙ミステリである以上、犯人=詐欺師は最初から分かり切っている。それを探偵=黒崎がどう暴き、かつどう騙していくかという(ある意味では)痛快なストーリィにもなっている。いったいどうやって騙され、どうやって騙し返すのか? これもまたひとつのミステリの形ではあるまいか(ピカレスク・ヒーローものだと言われればそうかも知れないけど)。

ミステリコミックにおける新たな注目作品と言っても過言ではないだろう。大変おもしろかった。

*1amazon:夏原武

*2:その理由は現在連載中の『共済詐欺』にて語られている。

*3:僕自身は『クーリングオフ詐欺』というものにかかりかけたことがあるので(クーリングオフができることを謳い文句にしてキャッチセールスを行うものだ。もちろんだったら最初から払わなければいいのだが)、結構警戒していたりいなかったり。でもまた騙されるかも知れないなぁ……。