石田衣良『少年計数機 池袋ウエストゲートパークII』(文春文庫)

4167174065少年計数機―池袋ウエストゲートパーク〈2〉 (文春文庫)
石田 衣良
文藝春秋 2002-05

by G-Tools

今年22冊目(小説2、漫画20、その他0)。

 自分が誰なのかを確認するために周りの全てを数え続ける少年・多田ヒロキ。十歳にして一切の他者を拒絶するかのようなその笑顔を見て放っておけなくなったマコトは、ヒロキと会話を交わし、交流を始める。触れ合いが進む中、ヒロキが突然誘拐された。マコトは複雑に絡み合った事件を『死者ゼロ』で解決出来るのか……? 表題作『少年計数機』の他、『妖精の庭』『鍵十字』『水のなかの目』の4編を収録、クドカン脚本・長瀬智也主演で人気を博したドラマの原作シリーズ第2弾。


 ドラマでは既に『あれから三年後の世界』までやっているが、気がつくと原作の方は5巻まで進んでしまっている。しかも現在進行形で。その全シリーズのなかでも一・二を争うエピソードがこの『少年計数機』なのですが、僕はラストの『水のなかの目』が一番好きだなー、と思います。『少年計数機』も面白かったのです。計算がやたら速い少年が暗号をマコトに送るシーンなんかはちゃんとミステリしているし、ヒロキ自身もかなり魅力的な存在ではあるんだけれど、僕自身が結構持ちキャラとして似たくさい人物を描いているからかも知れず、「世の中には結構いるんじゃないかなそういうヤツ」と思ってしまった。ヒロキ少年の成長も今後楽しみなところではあります。


 で、何で僕が『水のなかの目』が好きかというと、おそらくその破滅的なラストにあるような気がする。あらすじを説明しておきましょう。三年前に起きた暴行事件について文章を書くべく調べ始めたマコト。同時期に起こった裏風俗荒らし。裏の世界の人々から頼まれたマコトは並行して調査を開始する。複雑に絡み合った事件の果てに待つ、意外な結末とは……?


 この事件ではマコトの意志にかかわらず次々と人が死に、傷つき、影を背負う。傷ついた彼らの分を背負って、マコトは意外な人物と対峙することになるのですが……やはりこの繰り返されるどんでん返しがこの作品の魅力だと思うし、安易な結末を否定する現実性(いや、現実にはないと思うが)も最後まで書ききられている。それでも一抹の救いがラストに見えるのは、著者自身がマコトと同じように『甘い』人間だからじゃないだろうか。僕もそんな甘い人間が大好きです。その甘さも、現実のつらさも背負っていく人々。一癖もふた癖もある人物たちだけではなく、その疾走の果てに待つ真相もまた、面白さの一つなのかな、と思いました。大変面白かった。