市川憂人『カルテット・ダンス』

カルテット・ダンスカルテット・ダンス
市川 憂人
Anonymous Bookstore 2005-08-13

by M-Tools


 読了。今年3冊目(同人小説としてのカウントなので総計からは除く)。DOJIN-REVIEWカテゴリを作った方が良いのかしらん。

 Anonymous Bookstoreの市川憂人さんの創作ミステリ個人誌。

 飛び散る吐瀉物、響き渡る悲鳴。午後の授業中に突然奴は斃れた。誰かに毒を盛られたらしい。馬鹿な、どういうことだ!? 奴はあたし達4人の弁当以外に何も口にしていなかったはずなのに。(表題作より)

 というストーリーの女子高生4人衆+αを主人公にした連作ミステリ。


 とにかく表題作の『カルテット・ダンス』が面白い。『誰が』『いかにして』毒を盛ったか、という疑問についてケンケンガクガクの議論が交わされ、あっさりと覆される結論の連続にミステリの醍醐味を感じました。明らかになる意外な真実も、(最後の可能性を追求した割には片手落ちの部分はあるのですが)説得力を感じます。……まぁ、ここまでガチガチにやるなら、こういう真相しかあり得ないか、というもの。ただ、それまでの推論をがっつりと覆された分、ストーリーテリングの巧みさを感じました。


 2話の『ロックトルーム・ランジェリー』では、密閉状態のロッカーの中から消えた下着の謎。3話『ディストーティング・ベーカリー』では食べると赤点を取るパン屋の謎を扱っており、フーダニットに徹した1話とは打ってかわっての『日常の謎』ミステリであり(まぁ、各種ミステリみたいに毎回人が死んでいたらしょうがないのですが)、3話では「何故赤点を取るのか」「何故赤点を取ると言われるのか」「何故赤点を取ってしまったのか」という3種類の謎が同時進行で動き出し、どこに着地するのか分からないという点がどきどき。


 苦言を申させて頂けるなら、やっぱり片手落ちの部分があったのかなぁ、と思いました。前述の第1話では9ヶ月も放置した牛乳パックはヨーグルト化するし、パック自体も変質するので、真樹と貴之が二人もさわって気づかないわけないし、それ以前に捨てた瞬間に気づかなかっただろうかという点ぐらいですが。3話の納谷がわざと赤点を取った理由がパン屋への嫌がらせだったってのは読み返してから気づきましたが。読みが甘いですねぇ。ごめんなさい。うーん、考えれば考えるほどしっかりと作ってあるな、と思って感心してしまいました。僕もこれぐらい厳密にミステリしなきゃいけないのになー。


 オタク用語が随所に散りばめられているあたり読者を限定してしまう気がしますが、それはそれ、これはこれ。楽しく読ませて頂きました。大変面白かったです。