問題は最初から原稿の所在じゃなかったのかな

 久々の連休です土曜日。ちょっと仕事は溜っていますが。自分のケツぐらいは自分で拭けるよう努力はするつもりです。多分。


 痛いニュース(ノ∀`):「美術的価値ある原稿を失った」 “金色のガッシュ!”作者、小学館に330万円損賠求め提訴…原稿紛失で


 最初にこのニュースを見た時は、「原稿の管理をしっかりしていない出版社に作者が切れた」んじゃないかな、と考えたのだが話はどうやら変な方向にねじ曲がりつつある。

 ちなみに僕が第一報を知った時に頭に浮かべたのはさくら出版原稿流出事件であった。かれこれ5年前に起きたこの事件は「漫画原稿が出版社の倒産に伴い、ネットオークションやまんだらけなどの古書店に流出」するといったものだったが*1、多分最初は原稿管理がずさんな出版社に対して正当な補償を求める、という感覚だろう……と思っていた。ところが、お二方のブログを読み、これが原稿管理の問題ではない(正確には管理云々の問題だけではない)と考えるようになった。


 (株)小学館を提訴。 雷句誠の今日このごろ。/ウェブリブログ

 橋口たかし 緊急 臨時ブログ|橋口たかしのブログ


 正直、金色のガッシュ!!』が絶版になるのも残念ながら時間の問題だとは思うが、裁判における請求が原稿管理のずさんさに対する正当な保証であることに対し、陳述書のメインになっている事柄が編集に対する嫌悪であり、こと裁判になった時に、判事に「それって幾らなんでも逆恨みなんじゃね?」という誤解を与える可能性もあるのでちょっと危険なんじゃないか、と思う。

 個人的には橋口氏*2は小学○年生の読者ページを担当されていた頃から名前を認識していたこともあり*3、正直非常に複雑な気持ちだ。ただ、もし橋口氏の言うことが本当ならば編集が作家により180度態度を変えている可能性もあるわけで、さすがに編集者も人間とは言え、それでは誹りを交わしきれないんじゃないか、とも考える。


 どちらもそれぞれ本人の体験であるとするならば、雷句氏が編集と真っ向から対立し橋口氏が編集に媚びた……とも考えられる。僕はサンデーの良い読者ではないからその辺の実情は全く分からないのだが、小学館サイドとしては「誠に遺憾です」という言葉以上のものを出さないだろうし、出しえないだろう。

 現に漫画編集者がストーリーに積極的に干渉する例は少なくないし、樹林伸氏や長崎尚志氏のように漫画原作者に転向した例もあまた存在する。その干渉を「お節介」と受け止めるか「アドバイス」と受け止めるかは実際の漫画制作者である作者次第ではあろう。そして作者の態度は概して編集の態度に表れる。同じ担当者から編集を受けていて、一方は暴力的だと感じ、一方は真摯だと感じたとすれば、「良い作品を作る」がいつの間にか「売れる作品を作る」「編集に口当たりの良い作品を作る」にシフトしてしまった可能性は否めない。雷句氏が職人気質だったのであれば、後者のような編集の態度は許しえないだったものかも知れない(橋口氏がそうではないとは言わないが、作画に徹しようと考える漫画家もいないとは言えない。例え原作つきでなくても)。だからこそ、作家同士の内紛を呼び起こすまでに至った制作現場の歪みを、さくら出版事件で解決出来なかった「作家・編集者・出版社」の関係を今一度見直すべきなのだろう*4。それが出来なければ、まず数年も経たないうちに新たな騒動が勃発することは間違いないわけで。

 ……とはいえ、僕自身は解決するとは思えない。こういった「商業創作物」はこのまま放置すれば、もしかしたらゆっくりと死を迎えてしまうのだろう。既に「編集と漫画家の二人三脚なら面白いものを作れる」は絶対真理とは限らないのだから*5


 奇しくも先日「巨人の星」などを産み出した内田勝が先日他界した。果たして数十年後、彼のように語り継がれる名物編集者がいるのだろうか、と思うと残念ながら僕は首をかしげざるをえない。それはもしかしたら、漫画雑誌というメディアの終わりが近づいているのだろう……と思うのは考えすぎだろうか。

*1:詳細は漫画原稿を守る会 - Wikipediaを参照されたい。

*2:偽物説もあるが、一読者がその名を騙るにはエピソードが具体的すぎるし、担当編集本人氏が騙るにしても、その可能性を指摘される以上メリットがあまりに薄いんじゃないかと思う。従って僕としては本物説を推したい。

*3:余談だが、小学生の頃から用いていた旧ペンネームはその読者ページの担当編集者のあだ名がモチーフになっている。

*4:雷句氏が持ち出している「作品の無理矢理な引き延ばし」もその一つだろう。現に鳥山明氏は鳥嶋和彦氏に出会ったことにより才覚を伸ばしたが、編集の引き延ばしにより創作意欲を失った、とも言われる。

*5:もちろん、才能の発掘を積極的に行い、大ヒットへと育て上げてきた数多くの漫画編集者の功績を否定するものではないけれど。