著作権の分岐点

Winnyの中の人が逮捕されたそうな。

[Internet Watch] 京都府警、Winny開発者逮捕~事情聴取では47氏が違法性を認める発言も

今回は「ソフト開発者がそのソフトが違法行為に使用されたために、その行為を幇助したものとして逮捕された」ケースだと考える。

もちろん、但し書きには「違法行為に使ってはいけません」と書いてあったが。


さて、今回のケースにおいて、大きく上げられている部分は三つ。

1.もしあるツールを違法行為に用いたとして、そのツールの作者が幇助として認められうるのか?

2.もし上記が認められるとしたら、同ツールを紹介あるいは転載していた雑誌・ムックに責任はあるか?(例:ネットランナー・iP!など)

3.例え作者が「著作権法に触れることを認識して、(使用者が)摘発されにくいように改良をし、捜査を免れようとした。それを周知し、繰り返した。(開発行為そのものを幇助としたのではなく)そのような行為全体をとらえた」として、それが逮捕の理由になるか?


まず1について。これ以前に、11月に著作物をアップロードしたとして二人が逮捕されている。今回はそれの幇助ということらしいが、

これは3のリンクで警察庁長官が言っている通り、「開発自体は違法行為ではない」。

もし開発自体が違法だとすると、どこまでも幇助に問えることになってしまう。


2については、限りなく難しい判断になるだろう。

しかし、同ソフト関連のサイト運営者を家宅捜索しているという話もあるから、

今後捜査の手が伸びる可能性はなきにしもあらず、といったところだろう。*1


多分焦点となるのは3の部分だろう。

すなわち、ソフト開発者の意図の部分だ。

Winnyが例え著作権被害の温床となっていたとしても、

それはあくまでも結果論に過ぎないのではないか?


ところで、中には「憲法違反だ」という声もみられるので、これを貼っておくことにする。

日本国憲法

第十九条【思想及び良心の自由】

 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

第二十一条【集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密】

1  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

ただ、刑法にはこんな条文もあるので、ちょっと立ち止まらなくちゃいけない。

(わいせつ物頒布等)

第百七十五条  わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。

今回のケースでは加納典明さんなんかが良い例だろう*2

この場合、前述の憲法には公共の福祉に反しない限りという一文が微妙に見え隠れしていることを把握しなけりゃならない。

その辺については甲南大のロースクールが「質問と回答」としてまとめてくれているので参照のこと。

ただ、今回の開発がP2Pの発展にあるとすれば、これは確かに公共の福祉に合致していることになり、今回の犯罪用件からは当然ズレが生じてくる。


産経新聞によると、Winny事件で弁護団が結成された

僕自身は今回の逮捕は納得行かないし、Winnyを違法ソフトととらえた上での捜査なんじゃないかと思う。

ソフト開発のために罪に問われるとしたら、犯罪構成要素を根底から覆す問題になるんじゃないだろうか。

同時に、Winny開発者がインターネットでいろいろ話していたことについて、そもそも本人であるという証明はできるのだろうか?*3

もちろん共有は違法だが、共有させる『技術』を違法とするのかどうか、今後見ていきたいと思う*4


ちなみに、著作権をめぐる動きは今開かれている国会でも大きく取り上げられている。

「スラッシュドット ジャパン | コミックや書籍にも貸与権を」にもあるが、書籍貸与権がそれだ。

図書館問題(PDFファイル)と併せて読めばさらに大きなうねりになっていることが分かるだろう。

CCCDや輸入CDの問題もあるし。

そして今回の事件。

妄言に過ぎないことだが、これを機にアナログ・デジタルの著作権論議が深まっていくのかも知れない。

現行の『著作権』はもう崩壊を免れ得ないところまで来ている。……悲しむべきは、そこにユーザの入る余地がだんだんと少なくなっていることだろうか。


ところで、余談だが、これにともなって全体のトラフィックが大きく下降している。

JPNAPサービスのトラフィック使用量グラフに寄るとWinnyで逮捕者がでた昨年11月にも下がっているので、

ファイル共有サービスが全体のトラフィックに大きく影響をあたえていることが分かるのではないか。


なお、Winny使用者に関わる法律問題は真紀奈さんところの「Winnyと著作権」を参照のこと。

ダウンロードしたファイル=アップロードされるファイルになるので、ダウンロードした人は違法となりうるので念のため。

実際摘発されるかどうかはまた別の話となるだろうが……。

*1:ただ、ネットランナー利用者増加を促進させたのでは、という意見はあまりにもアングラ住民、あるいは勝手にサイトや絵を転載された人々の私怨の臭いがするので、一概には言えないのであるが。そんなに文句があるのなら、公開質問状を出してみるべきだと思うのだがどうよ。

*21995年1月20日及び2月13日参照。ちなみに2月24日に罰金50万円で釈放されている。

*3:僕はインターネットの世界は基本的に「匿名文化の世界」であると思う。IPの判定はそのまま使用者の同一性に直結するとは決して言えないからだ。家族の別の人が使っている可能性だってあるし。

*4:何も警官の不祥事があいついでいる時期にさらに火に油を注ぐようなことをしなくてもと思ってみたり見なかったり。