城平京『名探偵に薔薇を』(創元推理文庫)

4488423019名探偵に薔薇を (創元推理文庫)
城平 京
東京創元社 1998-07

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読了。今年46冊目(小説8、漫画35、その他3)。

怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に? 人気コミック『スパイラル~推理の絆~』原作者デビュー作!

『スパイラル』『ヴァンパイア十字界』でコミック原作の人になった城平京の長編デビュー作。

ちなみに解説は「ある一文字で検索するとトップに出てくるおじさん」こと津田裕城氏*1


『スパイラル』や『十字界』にも共通していえることだろうけれど、城平氏の描く『名探偵』とか『天才』とかには常に『孤独』というものがつきまとっているような気がする。第一部の『メルヘン小人地獄』は本格推理と言うよりはいわゆる『金田一少年』的な見立て連続殺人を扱っており、おもしろいかというと正直そうでもなかった。

しかし、それは第二部の『毒杯パズル』によって昇華される。解説の津田氏が指摘しているように、『メルヘン小人地獄』は単なる『毒杯パズル』のプロローグにすぎない。『毒杯パズル』のなかで、古今東西のミステリがそうであるように真相は二転三転し、意外な真実を突きつける。それは至ってシンプルで、トリックとしてはさほど難しいものではない。

そして結末に描かれたものはただ一つ、『名探偵の孤独』だけである。


真実を導き出すがゆえに、それは孤独となる。

真実とは悪夢にもなりうる。嘘が人の心をいやすように、真実が人の心を傷つけることもある。この作品で描かれている『名探偵』とはその真実によって傷ついてきた者のことである、と僕は考える。

真実とは何か……となっていくと今度は哲学になっていくからやめておくけど、これ、設定次第では青春小説として別の形に仕上がったのではないかと思う。

その証拠に、『スパイラル』は本格ミステリの形式を離れ、完全にサスペンス物+青春活劇と化していった。

それが『スパイラル』の脱皮に繋がったことは言うまでもない。


個人的な感想だが、城平氏は一連の作品で『孤独』を描き続けているのではないか。

そして、その孤独の中でもがき苦しむ者たちのことを描き続けている。

それは何となく、一貫したテーマであるように思えるのだ。同時に、その先にある物が何であるか、もしかしたらそれを探すためにこの物語はあるのかも知れません。

そんなわけで、この作品は青春小説として読むのが一番おもしろいと思います。

おもしろかった。

*1:回りくどい解説かも知れないが気になる人は某観察スレを参照のこと。