いつも誰かが誕生日

 秋山真琴さん誕生日おめでとうございます火曜日。で、本来ならば秋山真琴Dayとか言ってみんなで小説書いたりCSSそろえたりするのがあっても良かった気がしますが、いつぞやの「永世Day」やらウッドストックDay」やらの喧騒はどこへやら、という感じもありまして、最近はそういった馴れ合いの主戦場がmixiに移ったこともあってか、とんと見なくなってしまったわけで。とりあえずこういうことでは何となく保守的な僕が改めて秋山真琴に捧げる超短編(字余り)を提供したいと思います。






                 Teddy Bear




 秋山真琴にとって忘れ難い記憶となるその一日は、突然の来訪者から始まった。

 秋山が眠けを我慢して扉を開けると、そこにはパンダのぬいぐるみがいた。秋山は扉を閉めようとしたが、ぬいぐるみの足の方が速かった。なので扉を閉められなかった。ぬいぐるみはぱたぱたと愛らしい足取りで、しかし全く遠慮を見せずに部屋へと入ってきた。さすがの秋山も一瞬どうすればいいかわからず、パンダのふさふさとした後姿を呆然と見送る。が、そこでふと、誕生祝いにもらった高級クッキーの缶がテーブルの上に広げっ放しになっているのを思い出す。何か深い危機感に駆り立てられ、秋山は慌てて後を追うが、もう遅かった――

 秋山が危惧したとおりの光景が、部屋になかに広がっていた。ただひとつ違うのは、ぬいぐるみの頭が取れていたことだ。この瞬間に、ぬいぐるみはぬいぐるみを凌駕したのだッ!!!! そしてその頭が、よく見ると見知った顔だった。

 見知ったどころか、毎日見ている。その顔は間違いなく、秋山真琴本人だった。だが、普段とはちょっと違うような雰囲気も同時に醸し出していた。

「な、なんだ、お前は!」

「はじめまして、秋山です」

ぬいぐるみの秋山がしゃべりだした。中に回廊ラジオのテープでも入っているのではと思うほど、それは秋山真琴だった。

「そしてさようなら。20歳の秋山真琴」

そう言いながら、ぬいぐるみの秋山は指のないふかふかの手を、お腹についているポケットに入れ、中から何かを取り出そうとしているのだろう。だが、指がないので掴めないようで、悪戦苦闘している。挙句、両手を突っ込んで、それでもまだもがきながら、床を転がり、足をばたつかせ、「ぬぇぇい」と喚いている。秋山はひどく眠かったので、助けてやろうかなどとは思わず、自室に向かうため「片付けといてよ」と一言残して去ろうとした、そのとき。

「これはSFだ! アイデンティティクライシスだ!」

 突然に叫んで後ろを見ると、そこにはただのぬいぐるみが置いてある。メッセージも飾り付けも何もない、ただのパンダのぬいぐるみ。アレは夢だったのだろうか。幻想か。あるいは幻幻想か。幻幻幻幻幻幻幻幻想。不可能な世界に生きるなという警告が、秋山の頭を支配しているのかも知れない。しかし、創作が一つの生きる糧である以上は、不可能性をどこまでも思考すること、そして思考しかつ推敲しある一つの方向へ結論づけること、それが創作の世界に生きる人間の義務であり、使命である。今日の一件は、そういう意味では世界のほころびを見るに等しいことであった。ならば、そのほころびを越えるほころびを。向こうがほころびなら、こちらは世界を八つに割き、中の綿を取り出して見せよう。秋山真琴、ここにあり……その上で、我が世界を開くのだ。

 戯言を綴りながら、秋山は布団を前にしていつものように呟いた。




「くぁ、ねみぃ」




                           『秋山寓話』1189文字






 まぁ、そんなこんなで楽しんでいただければ幸いです。苦情? しらね。*1


 まぁ、今日は一日中寝てたおかげですっきりというか、何というか。とっとと仕事片付けます。

*1:実は某所で展開されたリレー小説だったりします。主犯:よあけさん、参謀:踝、共犯:もにょ@四鳩美羽さん遥彼方さんid:firstheavenさんウリオさん言村律広さん


PING//
TITLE// 8月16日、誕生日にこの日を持つ生物はいない、無機物もいない。何故か、8月16日に生れ落ちたる生き物は地上に一人も一人も一匹もおらず、8月16日に完成された創作物も何一つとして存在し
URL// http://d.hatena.ne.jp/sinden/20050831#1125447243
BLOG NAME// 雲上四季
DATE// 2005-08-31 09:14:30 AM
 QEDにて『秋山寓話』が公開されています、http://qed-jp.com/log/200508/302355.php。  共犯者を見る限り、計画性のある作...