ヘリオテロリズム・編『ヘリオテロリズム特別号「20」』

ヘリオテロリズムヘリオテロリズム特別号「20」
ヘリオテロリズム・編
ヘリオテロリズム 2004-12-30

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そらけいさん主宰の文芸同人誌の冬コミ用特別号。僕もこそっと書かせていただきました。どうやら一見さんには本誌よりもこちらの方が受けが良かったみたい。僕も短編小説の方が好きなので、むしろこっち寄りかな。んで、執筆者用にと三冊いただき、そのうちの一冊を相方に、もう一冊を売り子で来ていた青谷さんにお渡ししました。という訳で、青谷さんはこれについてのレビューを書くように(冗談です)。以下、敬称略。


  • 『蔓』松本楽志
    • 途中で挿入される無意味な文章がこの作品の肝なんだろうなぁ、と思います。トップバッターを飾るにふさわしい、幻想的な作品。好きとかそういうのを越えて、技巧的に上手いな、と感じてしまいます。
  • 『耳』近田鳶迩
    • うわーコントだー。これ本当にMYSCON6で近田さんと進井さんでやるんですよね?(違います)どっちがボケでどっちがツッコミかが分からなくなってしまう所が気になるかも。テンポがいいなぁ、と思います。
  • 『リピート』根子
    • かなり端正な小説だと思います。なんかジャンルを示すこと自体がネタバレになりそうなので、何も先入観を持たずに読むのが一番なのかなぁ、と思いました。僕は最初分からなくて思わず読み返してしまいましたが。味のある作品。
  • 『壁の向こう』キセン
    • なんと言えばいいんでしょう、見事な青春小説。ファンタジーっぽいところはあるんですけど、そこがいい味を出していると思います。なんつーか、本当に面白い。設定が『セカイ系』っぽいところはあるのですが*1、それを20枚にしっかり納めてしまったところは上手いとしか言いようがありません。
  • 『メタ探偵の助手』秋山真琴
    • そらけいさんからは「(Vol.1掲載の)『メタ探偵の憂鬱』よりは分かりやすいですよ」と聞いていたので読んでみる。しかし、このシリーズが自分の作品(?)が契機となって書かれたというのは単純に嬉しい。どうでもいいけど、『邪悪』なんて名前を女の子に付けるのは昔いた『悪魔』くんの父親か西尾維新ぐらいだろうな、と(苦笑)。個人的にはさらにもう一捻り欲しかったな、と思います。そんなにわかりにくくないな、と思ったのは僕だけかな?
  • 『20には帰れない』踝祐吾
    • なんつーか、地味。短編小説に詰め切れなかった部分があるのではないか、と思う。あとは滅の人に指摘されたトリックの不備とかその辺をもっと詰めていけばいいのかも知れない、とかってに思ってみる。
  • 『平成元年のバスケットボール』K
    • これは本格的にわかんねーです(ほめ言葉ですよ)。タイトルが大江健三郎の『万延元年のフットボール』から取られているのは分かるんですが、僕は参考文献を一つも読んでいません。タイトルは知ってるんですが。いろいろな文章をサンプリングしたのかな、と思いました。多分違うとは思いますが。厭世観というか、そういうのが全体に貫かれている作品だと思います。文章のリズムは大好きです。
  • 『未来のあなたを許してあげて』いづる
    • 論点とか疑問点とかがすっきりと整理されていて、本当に読んでいて安心する作品だったと思います。こういう落としどころのしっかりしている作品が好きですね。戦争ものではありますが、決してノワールに行かず、最後まで真っ白な作品かな、と思います。ある意味幻想的な作品だな、と考えてしまいました。
    • 補足。僕自身はこのオチ以外は考えつかないだろうし、一捻りあればという話ではあったが第一死んでしまった人間にどう責任を負うのか、という問題もある。これ以上戦争責任論について語っちゃうと『ダメ感想サイト』のお手本になってしまいかねないので言及は避けますが、確かに舞台設定のためだけに殺されてしまった人間というのは納得いかない気がします(というのはキセンさんのレビューを読んで思ったことでした)。
  • 『百億の秋に、千億の愛を』#3「限りない慾望」丼原ザ★ボン
    • わかんねーその2(だからほめ言葉ですってば)。エッセイと書いてあるにもかかわらず作者名と書いた人の名前は違いますし、そもそもこれは誰にとってのエッセイだったのか、というところも疑問に残ります。おそらくはその『わかんねー』感が狙いなのでしょうが。5ページ目ぐらいまで普通に話が進んでいって、5ページ目最終行で強引に落とされた辺りが、なんか「置いて行かれた」という風に感じてしまったのは僕だけかも知れません。なんか読者を置いていってどこかへぶん投げてしまう作品のような気がしましたね。
  • 『輪唱ラヴソング(二)』曽良圭
    • 今回は本当にお疲れ様でした。とりあえず軽く読んで、会話のテンポの良さに感心しました。第1回をまだ読んでいないので、そちらを読んでから感想を書きたいと思います。

まとめとして。

短編小説は手にとってもらいやすいというメリットがあるので、結構多くの人に読んでもらえたんじゃないかな、と思います。その割には感想が長くなったり短くなったりしていますが。うーん、難しい。

肥大した自意識が云々というのはよく言われることなんでしょうけれど、作品の中にどれだけ自我を出す/出さないか、というのは結構難しい所なんだと思います。

それでも、この作品群をまとめてくれたそらけいさんには感謝としか言いようがありませんし、今後もこういう短編企画は続けていって欲しいなと思います。書きやすく読みやすい。そして、その人の力量が一番出やすいのも短編であるという気がします。今後が楽しみです。


ついでに、鞄の中に入れていたら表紙の印刷がはげてきました(苦笑)。そらけいさんもおっしゃってた所ではありますが……それは仕方ないか。

*1:よく分からないでこの用語を使っています